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The Boys from Brazil ブラジルから来た少年

アメリカ映画 (1978)

ジェレミー・ブラック(Jeremy Black)がヒットラーのクローン(14歳)を演じるサスペンス映画。ジェレミーは、94体作られたクローンのうちの4人、①西ドイツのGladbeck のErich Doring、②アメリカのマサチューセッツ州LenoxのJack Curry、③ロンドンのSimon Harrington、④アメリカのペンシルバニア州New ProvidenceのBobby Wheelockとして登場する。登場場面は、①45:06-47:11、②1:02:07-03:07、③1:03:41-04:05、④1:49:40-57:46と2:01:23-53の5回、合計しても11分と全体の9%なので、おおまかな概説と、登場場面に限っての説明となる。主役の2人、ナチスのアウシュヴィッツ収容所で人体実験を主導した「死の天使」ことヨーゼフ・メンゲレにグレゴリー・ペック、著名なナチ・ハンターのサイモン・ヴィーゼンタールをモデルにしたエズラ・リーバーマンにローレンス・オリヴィエという豪華な配役。オリヴィエはアカデミー賞の主演男優、ペックはゴールデン・グローブ賞の主演男優の候補となったが、何れも果たせなかった。『死の接吻』『ローズマリーの赤ちゃん』などで知られるアイラ・レヴィンの同名原作(1976)の映画化。クローン人間を扱った映画としては、製作年が異例に早いことで知られる。

ナチスSSの狂気の医師ヨーゼフ・メンゲレは、戦争犯罪の追及を逃れて南米に潜伏していたが、水上飛行機でパラグアイのアジト(豪邸)に出現し、旧ナチとネオナチの6名を集め極秘作戦の発動を命じる。2年半の間に9ヶ国に住む94人の男を65歳になった時に殺せという奇妙な指令だ。それを、コーラーというアメリカ系ユダヤ人青年が盗聴・録音していた。途中で盗聴がバレ、必死で逃げてホテルに戻り、そこからウィーンに住む有名なナチ・ハンターのリーバーマンに電話する。指令の概略は伝達できたが、せっかく録音した内容は、追手に殺され伝わらなかった。しかし、異様な指令と青年の死に ただならぬ危険を察知したリーバーマンは、知り合いのロイターの記者に、65歳で事故死する欧米の公務員の名前をすべて知らせてくれるよう頼み込む。その情報に基づき、最初にリーバーマンが訪れたのは、偶然、最初に殺された西ドイツ(当時)のGladbeckのDoring家。そこでは、若い未亡人が黒髪碧眼の14歳の少年と住んでいた。何の変哲もない光景。しかし、リーバーマンが、次にアメリカに行き、Curry家を訪れた時、そこに西ドイツで見たのとそっくりの少年を見て愕然とする。2人は双子だろうか? しかし、なぜ西ドイツとアメリカに? その疑問は、Curry未亡人が、息子は、ドイツ人女性が仲介した養子だと打ち明けたことで深刻な杞憂へと変わる。そのドイツ人女性マローニは、リーバーマンが監獄に送り込んだナチスの戦争犯罪人だったからだ。刑務所でマローニに面会したリーバーマンは、養子仲介時に父親と母親に年齢要件があったこと、父親の職業にも条件があったこと、赤ん坊はブラジルから運ばれてきたこと、さらに、すべて黒髪碧眼の男児だったことを訊き出す。リーバーマンは不安になり、ウィーン大学の生物学研究所を訪れる。そこでは、遺伝子操作の研究者から黒ウサギのクローン実験の映像を観せられる〔ウサギのクローンが世界で初めて作られるのは2002年なので、この部分は架空の設定だが、20数年後には実現しているので、決して絵空事ではない〕。研究者が例えとして持ち出した、何人でもモーツアルトができるという言葉に、ぞっとするリーバーマン。メンゲレの魂胆が完全に分かったからだ。ヒットラーが育ったのと同じような環境(年上の父、若い母、甘やかされて育ち、14歳で父を失う)でヒットラーのクローンを大量に育てようという気違いじみた計画。リーバーマンは、Wheelockの犬の誕生日から、当主が65歳になる日(殺される日)を割り出し、アメリカのWheelock家に向かう。しかし、そこには、リーバーマンの名を騙ったメンゲレが一足先に着き、殺人を済ませ、リーバーマンの来るのを待っていた…。

ジェレミー・ブラックは、撮影時、映画の設定と同じ14歳くらい(声変わり前)。 少年時代のヒットラーの写真と比べると、あまり似ていない。ヒットラーの子供時代の顔など知られていないので、独裁者になってからの髪形や表情に似せて、ヒットラーのクローンだということを強調したかったのかも。子役としての出演は、これ1本のみ。
  


あらすじ

映画では直接表示されないが、映画公開と同年(1978年)のウィーン。ナチスの戦争犯罪人を追及するナチハンターとして四半世紀を捧げてきたリーバーマン(モデルとなったサイモン・ヴィーゼンタールは2003年に引退)。資料が山と積まれたアパートで妻と2人で暮らしている。資料が重過ぎて床が歪み、それが階段のパイプを破損させ、建物全体が水浸しになった(?) と家主から責められる。リーバーマンの部屋も、水が天井から流れ落ちている(1枚目の写真)。そこに、コーラーという青年がパラグライから電話をかけてくる。リーバーマンは、二番煎じの情報だと思い、危険だからすぐに出国しろと勧めるが、青年はナチスのアジトで下働きをしている子供を買収し、ラジオ式の盗聴器を客間に仕掛けさせる。そこに、ブラジルに潜んでいた大物、「死の天使」の悪名で有名なメンゲレが現れる。そして、工作員6名を前に、2年半の間に9ヶ国に住む94人の男を65歳になった時に殺せと命じる(2枚目の写真)。西ドイツ16名、スウェーデン14名、イギリス13名、アメリカ12名、ノルウェー10名、オーストリア9名、オランダ8名、デンマークとカナダ6名で、税理士や公務員、校長などの職についている非ユダヤ人だという。この極秘事項を盗聴器から電波を飛ばしてラジオで聴いていたコーラーだったが、途中で別のラジオに混線し、盗聴器の存在がバレてしまう。コーラーは慌ててホテルに戻り、この異様な情報をリーバーマンに電話で話そうとするが、ウィーンが午前3時という時間だったため、文句を言われ、なかなか本題に入れない。そのうちに、盗聴器を仕掛けた少年が捕まり、メンゲレらはコーラーのホテルへ急行する。コーラーは、何とか、メンゲレの指令の最初の部分をリーバーマン伝え、いよいよ録音した内容を聴かせようとしたところで(3枚目の写真)、乱入したメンゲレの部下に殺されてしまう。尋常ではない内容に、メンゲレの危険な意図を感じ取ったリーバーマンは、旧知ながら嫌がるロイター通信の記者に、65歳で事故死する欧米の公務員の名前をすべて知らせてくれるよう頼み込む(4枚目の写真)。
  
  
  
  

リストの1番上にあったのは、西ドイツのGladbeckに住むDoringだった。1978年11月22日。バーから一杯機嫌で出て来て、原動機付き自転車に乗った太っちょのDoringを、Farnbach大尉が車でゆっくり追いかける。Doringが、空き瓶の木箱の陰で用を足そうとした時、大尉はBMWで木箱の山に突っ込み、Doringを押し潰して殺害する(写真)。この事故死を含め、西ドイツで起きた3件の情報が、記者からリーバーマンに伝えられた。他の2件はリストとは無関係なので、運よくリストの1番が、正しく伝えられたことになる。
  

リーバーマンは、さっそくDoring家を訪れる。Farnbach大尉が隠れて見張る中で、ドアを開けたのは、Doring家の息子Erichだった(1枚目の写真)。少年は手にオーボエを持っている。リーバーマンが中に入れてもらうと、狭い玄関の両側には鏡が貼ってある。鏡に写った少年の姿は反射をくり返して無限に並んでいるように見えるな(2枚目の写真)。この演出は、94体のクローンをさりげなく暗示する優れたアイディアだ。65歳の当主が死亡し、出て来たのはローティーンの少年なので、リーバーマンは、「お孫さん?」と訊いてみる。「息子です」。リーバーマンを迎えた母は40代初めの色香のある女性で、「数ヶ月前、テレビで拝見しましたわ」と話しかける。少年は、「ナチ・ハンターで、フリーダ・マローニを捕まえた。捕まえたら殺すの?」と訊く。「いいや、それでは法に反するだろ。裁判にかけて、みんなに周知するんだ」。「何を周知するの?」。「奴らが、どんな名前で、何をしたかをさ」。「なぜ捕まえるの? 歴史の本に載せるだけで十分なのに」(3枚目の写真)。少年がオーボエを習っているのは、ヒットラーが絵を習っていたことへのオマージュか。なお、カラー写真の発売は1935年だが、ヒットラーのカラー写真、特に目の色の分かるものは少ない。しかし、確かに目の色は青く、髪の毛は黒い。
  
  
  

計画を統括するRausch将軍からの命令で、計画の保安担当のSeibert大佐がメンゲレを訪れる。そこで一番不可解な台詞は、大佐の「なぜ、リーバーマンのことを黙っておられたのですか?」というもの。それに対し、メンゲレは「必要だと思わなかった」と答えている。なぜ、メンゲレはリーバーマンの関与を知ったのか? コーラーはすぐ殺してしまったし、電話から聞こえてきた「コーラー?」の一言で相手がリーバーマンだと確定できたとは思えない。Farnbach大尉からの報告は、2回目のSeibert大佐の訪問時に明らかにされる。「問題が起こりました。リーバーマンがGladbeckのDoring家に現れました」。「奴が、Doringのことを探り当てたとでも?」。「ご存じなかった?」。「どうやって?」。よって、1回目の訪問時の「なぜ、リーバーマンのことを黙っておられたのですか?」という質問は、脚本のミスであろう。1枚目の写真は、2回目の大佐訪問後、94名のリストに嬉々として「殺害完了」の×印を加えるメンゲレ。一方、ウィーン中央駅には西ドイツでの調査を終えた帰国したリーバーマンを妻が迎えている。そこに、アメリカからやってきたコーラーの友人デビッドが、後を引き継ぎたいと申し出る(2枚目の写真)。最初は断ったリーバーマンだが、デビッドの熱意と、ロイターの記者から届いた情報の多さを妻から伝えられ、協力者にする。さて、この前後で、明らかな編集のミスがある。映画のエピソードを順に追ってみよう、①43:20-44:40に、1979年2月10日にロンドンでネオナチのHessenによって行われたHarrington殺害のプレ映像、②44:40-49:30に、先に紹介したリーバーマンのDoring家訪問、③49:30-51:20に、Harrington殺害、④上記のSeibert大佐の2回目の訪問、⑤上記のウィーン中駅のシーンを経て、⑥57:50-1:01:19に、1979年1月29日に1日早く実施されたMundt大尉によるLofquist殺害と並んでいる。①と③はリストの17番、⑥はリストの16番の殺人なので、明らかに順序が逆転している。したがって、あらすじでは、③を後に廻し、⑥を先に紹介する。⑥では、Mundt大尉は、スウェーデンのStorlienという山の町からさらに奥に入ったダムを訪れる(3枚目の写真)。2つの矢印は被害者の場所と、大尉の乗った車を指している。大尉は、ここでスウェーデン人Lofquistを殺すハズだったが、実際に現地に行ってみると、それはスウェーデン人になりすました、かつての上官Hartung少佐だった。それでも命令なので、彼をダムから突き落とす。
  
  
  

リーバーマンは、アメリカのマサチューセッツ州の田舎町LenoxのCurry家を訪れる。ここは、リスト上15番目の被害者で、1979年1月30日が殺害日となっていた。彼が未亡人に質問していると、そこに風邪をひいて学校を休んでいた一人息子が冷蔵庫からジュースを飲みに降りてくる。夫人が、「ジャック・カリー・ジュニアです」と紹介すると、少年は振り向き、「もう、今じゃ、ジャック・カリーだよ」と生意気そうに言う。「こちらはリーバーマンさん。オーストリアのウィーンから来られた有名な方よ」。「有名って、何で?」(1枚目の写真)。その顔を見たリーバーマンの表情が、みるみる驚愕へと変わる(2枚目の写真)。西ドイツのErich Doringと瓜二つだったからだ。「不思議だ! 君は双子かい? ドイツのグラドベックに君とそっくりな子がいた!」。「僕とそっくり?」。「こんなに似ているのは見たことがない。双子だって、これほどそっくりじゃない」。母親は、息子を無類やり自分の部屋に戻らせ(3枚目の写真)、それ以上訊かれるのを拒み、リーバーマンを追い出す。
  
  
  

先に上げた理由で、映画では19分も先に始まっているHarrington殺害は、1979年2月10日なので、あらすじでは、ここに持って来た。ネオナチのHessenは、間借りをしているNancyをセックス後に殺し、その部屋に家主でもあるHarringtonを呼び込んで、絞首して殺す(写真)。この場面では、後から妻は登場するが、息子は声だけで顔は見せない。この場面の後、先に述べたように、いろいろなシーンが挿入され、ようやく、協力者のデビッドがHarrington家を訪れるシーンへとつながる。
  

デビッドが呼び鈴を鳴らすと、ドアを開けたのはHarringtonの息子Simon。デビッドにとっては、初めて見るクローンなので、何も驚かない。Simonは母に会いたいと言うデビッドを、実に生意気なやり方で断る(1・2枚目の写真)。「母は、今日は会わないよ」。「多分、もし君が…」。「お前、英語 分からないのか? 面会は お断りだ(We are not at home)」。デビッドは、リーバーマンに電話でイギリス調査の結果を報告するが、その中で、唯一息子がいたHarringtonについて、息子の外見を訊かれ、「少し青ざめていて、真っ直ぐな黒い髪、青い目です」と答える。それを聞いて思わず絶句するリーバーマン。三つ子なのか?
  
  

その夜、リーバーマンのホテルに、Curryの未亡人が訪ねてくる。未亡人は、先ほど追い出したのは、息子を取られるかもと恐れたからだと打ち明ける。そして、「あなたが、ドイツの少年のことを話されたので、心配になったんです。私たちにジャック・ジュニアを下さった女性が、誰にも言うなと誓わせたものですから」(1枚目の写真)。「息子さんは、養子ですか?」。「ドイツの女の方が お世話下さって。とても良い方でした。新聞で、あなたが彼女を告発されたことを読み、とても驚きました」。リーバーマンは、今回の件にマローニが絡んでいたことを知り愕然とする。リーバーマンは、マローニが収監されているデュッセルドルフの刑務所を訪れる。マローニは、自分が関わった養子斡旋所について、その表面しか知らなかったので、何のためらいもなく話す。①同志会の知人が1963年の春に接触してきたこと、②戦後彼女を助けた見返りに、養子斡旋の仕事をしてくれと頼まれたこと、③夫が高齢で子供のいない北欧系キリスト教徒の夫婦を探したこと、④条件は、夫が1910~14年の間に生まれ、妻が1933~37年の間に生まれていて、夫の職業が公務員に類するものであること。さらに、約1年後の出来事として、①志望者に赤ん坊を引き渡せと命ぜられたこと、②赤ん坊はヴァリグ航空のスチュワーデスから渡されたこと〔ヴァリグ航空はブラジルの会社〕、③赤ん坊は黒い髪で青い目だったこと、を話した。メンゲレが潜んでいたブラジルから黒髪碧眼の赤ん坊が大量に運ばれて来たことは、恐ろしい予感をリーバーマンに与えた。リーバーマンはウィーン大学の生物学研究所を訪れ、相手をしてくれた科学者からクローン技術について初めて聞かされる。動物を使って完全な複製を作ることができるようになったと。そして、白ウサギから黒ウサギのクローンが誕生した8mm映像を観せられ、実物も見せてもらう(3枚目の写真)。そして、リーバーマンをハッとさせたのが、「世界中にモーツアルトやピカソが一杯いて欲しくありませんか?」という分かりやすい言葉。さらに博士は、黒板に、「父65歳、母42歳、子供を溺愛し駄目にする。子供:青白、黒髪、青い目」と書く。ここで、リーバーマンはドナーは生きている必要があるかと尋ね、生きているうちに細胞を保存しておけば可能と返事される。リーバーマンは、「税理士だった横柄な父親をもつ孤独な少年。父親が52歳の時に生まれ、29歳の母親は優しくて溺愛。父親が65歳で死亡した時、もうすぐ14歳になっていた。アドルフ・ヒットラーです」と、力なく話す。
  
  
  

これより少し前、ウィーンでは、リーバーマンが妻に対し、「メンゲレは、赤ん坊を渡した14年後に父親を殺している」と話しかけるシーンがある。どうして、そこまで断言できるのか不明だが、ここで、リーバーマンがマローニから最後に訊き出したことが生きてくる。マローニがWheelockに赤ん坊を渡した時、生後10週間のドーベルマンをプレゼントされたこと。そして、その犬の誕生日が12月11日ということだ。それから計算すると、12月11日+70日は、2月20日となる。リーバーマンは、後4日でWheelockが殺されるので、警告しなければと妻に言う。一方、パラグアイでは、Seibert大佐が上部からの命令として、メンゲレに計画の中止を通告する。メンゲレは1人でも実行すると宣言して去り、大佐はそれまでメンゲレが潜んでいたアジトに火を放つ。メンゲレの94名のリストには18番まで×印が付けられ、19番目、アメリカのペンシルバニア州New ProvidenceのWheelockの所に赤丸が書かれ、紙には「リーバーマン!」と大きく殴り書きしてあった(写真)。このことは、一匹狼と化したメンゲレが、Wheelock家でリーバーマンを迎え撃つ決意を示している。
  

一足先にWheelock家に着いたメンゲレは、当主が「リーバーマンさん?」と訊くと、にっこりそうだと言い、中に招じ入れられる。ただ、予想外だったことは、苦手の犬、しかも、獰猛なドーベルマンが4匹も主人と一緒だった点。メンゲレは、犬が苦手だと訴え、隣の部屋に移らせることに成功。ドアが閉まると、すぐに拳銃を取り出し、地下室まで案内させ、階段を降りる途中で容赦なく射殺する(1枚目の写真)。メンゲレがしばらく待っていると、リーバーマンがやって来る。ワザと開けておいたドアから家に入ったリーバーマンは、居間に入ったところで待ち受けていたメンゲレと対峙する。そして、メンゲレの拳銃が容赦なく火を吹く(2枚目の写真)。
  
  

幸い銃撃は当たり損ねで軽傷、リーバーマンは取っ組み合いに持ち込み、拳銃を持つ手に噛み付くなど大健闘。しかし、最後には、拳銃でホールド・アップさせられる。メンゲレは殺害予定者のリストを書いた紙を見せ、誰も止められんとうそぶく。そして、94人のコピーは、1943年5月23日、ベルクホーフの別荘で、計画を打ち明け、賛同を得たヒットラーから提供を受けた半リットルの血液と肋骨近くの皮膚の一部から作り出したものだと、誇らしげに語る。そこに隙を見つけたリーバーマンは、ドーベルマンを隔離しているドアを2発の銃弾を受けながらも開けることに成功。ドーベルマンは一斉にメンゲレに襲いかかる。犬は、武装解除した後は、見張るように唸りながらメンゲレを監視する。そこに、クローンのBobbyが学校から帰宅する。居間に入って来てメンゲレに気付いたBobby(1枚目の写真)。「すげえ」と言うと、けが人の救助や、犬などそっちのけで、趣味の写真を撮り始める(2枚目の写真)。そこに、非人間的な残酷さが感じられる。写真好きは、Erich Doringのオーボエと同じ、ヒットラーの絵画趣味へのオマージュだ。
  
  

メンゲレは、全くの嘘をでっちあげ、リーバーマンに銃を突き付けられたが、打ち負かしたと話し、犬をどけてくれと頼む。Bobbyは、犬はどけてくれたが、犬の行動から銃の持ち主はメンゲレだと分かっていた。だから、メンゲレが立ち上がると、犬をけしかける。その時、リーバーマンがBobbyを呼び、息も絶え絶えに「警察に電話を」と頼むが、メンゲレに、「それをする前に、君が知っておくべきことが幾つかある」と言い、興味を持ったBobbyは「どういう意味?」と訊く(1枚目の写真)。最初の頃は興味を惹かれて聞いていたが、最後に、メンゲレが「君は、歴史上 最も偉大な人物アドルフ・ヒットラーの生きた複製だ」と言ったのだが、これは戦後30年以上を経過したアメリカの生意気な少年には、何の関心も引き起こさない戯言でしかなかった。「変な奴」と言って笑ったBobby(2枚目の写真)は、リーバーマンの必死のサインに再び目を留めた。今度のリーバーマンは、「父さんを捜せ」「彼は君の父さんを殺した」と懸命に伝える。それを聞いて走って調べに行くBobby。メンゲレが何を喚いても耳に入れず、必死で父を捜し、遂に地下室で射殺された死体を見つける。居間に戻ったBobbyは、「この気違い野郎!」と叫ぶと、ドーベルマンに攻撃を命じる。あちこちを食い破られたメンゲレは、「ボビー」の一言を最後に息絶える。
  
  
  

犬を外に出したBobbyは、リーバーマンの前に戻って来ると、「僕が救急車を呼ばなかったら、あんたも死ぬよ。今すぐ、出かけたっていいんだ。ママは遅くまで帰らないし。その時までには、あんた死んでる」と警告した後で、「もし、警察を呼んだら、僕のやったことを言うか?」と訊き、リーバーマンが首を横に振ると、「ならいい、握手だ」と、痛がるリーバーマンを無視して強く握手する(1枚目の写真)。無慈悲なところはヒットラーそっくりだ。そして、ようやく救急車と警察に電話をかける。その隙に、リーバーマンは 最後の力を振り絞ってメンゲレから殺害予定者のリストの紙を取り上げ(2枚目の写真)、そのまま気絶する。リーバーマンは、郡都のあるLancasterの総合病院で意識が戻る。目の前には、協力者のデビッドが微笑んでいた。リーバーマンは「メンゲレは死んだ。これで終った」と言うが、デビッドは「Erich Doringは、まだ死んでいません。Simon HarringtonもJack CurryもBobby Wheelockも」。「君は、どうするつもりなんだ?」。「殺します」。そして、「メンゲレは大した奴ですね、94人の名前と住所を記憶していたとは」と口にする。リーバーマンは、聞き出す罠かと思い、自分の鞄を指して、「部屋中捜したんだろ?」と訊く。「あなたは、リストをお持ちのはずです」。「持ってる」。「下さい。我々には権利と義務があります」。「何をするんだ? 子供達を殺すのか?」。リーバーマンは、リストを取り出し、「最初の子供に君が手を出したら、君らの組織を警察に通報してやる」「私は、罪なき者の虐殺はしない。君もそうすべきだ」と断言する。そして、煙草に火をつける時に、リストにも火を点けてしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

こうして、ヒットラーのクローン達の命は救われた。4人以外は、名前すら分かっていない。果たしてこれで良かったのか? 事件後、Bobbyは暗室で撮影した写真の現像をしている。負傷したリーバーマンと死んだメンゲレの写真だ。無残な姿となったメンゲレの写真を見ながら、Bobbyは「うぇつ(Man)」と一言。日本版DVDでは、これを「いい出来だ」と訳し、Bobbyの邪悪さを強調しているが、“Man” にそのような意味はない。「うゎ」「ゲーっ」「やれやれ」といった感じだ。これだと映画の結末の意味は逆になる。Bobbyは、メンゲレに犬をけしかけて殺した行為を、残酷だったと後悔しているのだ。
  

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